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「インバウンド需要」って言葉を使うの、やめませんか。 [和製英語]

 今マスコミや日本語ニュースサイトで聞かされているカタカナ語の
「インバウンド」って、和製英語だと思います。

 そのカタカナ語が該当するとされる英単語として inbound があります。
ところが英語の inbound に「外国からの観光(買い物)客」とか
「外国から来る観光客がもたらす」という語義は存在しないのです(※1)(※2)(※3)
特に「客」という語意は絶対にありません。
客」の意味がないのが、一番の問題です。(※4)
だから inbound が「お客さま」の意味にはなりえないのです。

 また私が調べたところでは、
人(a person or people)に対して用いる言葉とも言い切れず、
人よりもモノや物事に対して使うことが多い言葉のように感じます。

Wiktionary(2012/04/10 12:08 UTC 版によれば、
inbound を名詞で使う場合は専ら、軍事関係の専門用語で
「帰航の船積み荷」すなわち、荷物を指す言葉として使います。
an inbound shipment の略語です。
名詞の用法では「帰航の船積み荷」以外の語意は掲載されていません。(※5)


 こんなおかしな和製英語が流行してしまえば、
「おもてなし」をするはずだった日本人が五輪観戦客に
「ユー アー ベリーナイス インバウンド!」
とか言い出しかねません。その言葉を聞いた外国人はどう感じるでしょう。

「私はモノ扱い?」

「インバウンドって、外国から日本に来るカネについて言っている言葉らしいな。
せっかく日本に来たっていうのに、私たちは所詮おカネに見られているだけなのか。残念で悲しい。」

などと思われる心配があるでしょう。これのどこが「おもてなし」なのでしょうか。

 美しい日本を目指すなら美しい言葉を使うべきです。アメリカに
 憧れるあまり、おかしな和製英語のカタカナを好んで使っていては、
いつまで経っても日本はアメリカの犬になり続けることでしょう。

 日本人にも意味不明、英語を母国語にする人が一致する英単語を見ても、
使わない言葉だとしか思えない...
こんな奇妙なカタカナ語を創作し流行させて、一体誰が得するのでしょうか。
この和製英語を作った人の自己満足に過ぎないでしょう。

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【※1】
 「インバウンドは名詞とは限らないでしょ。本来は形容詞で
 『インバウンド需要』のように『外国から来る』『外国からの客がもたらす』の意味だよ。 
 だから和製英語とは言えないよ。」
主張する人もいるでしょう。

しかし、英語で inbound の形容詞の用法にも、そのような語意はありません。

つまり仮に「『インバウンド』が名詞で『外国からの観光客(または買い物客)』ではなく
あくまで形容詞で『外国から来る観光(または買い物)の』という意のカタカナ語なのだ」、
と仮定したって、結局和製英語と言わざるを得ないのです。


【※2】
inbound passengerinbound into customs, inbound out of customs 
「外国からの」という語意があることを思わせるような使用例が掲載されている。
だがそれらを適切な時や場所で使わなかった場合でもいつでも
「外国からの」の意味として使えるだろうか。私は使えないと思う。
それらを空港や国際荷物の検索のサイトで使う場合に限り、
「外国からの」という意味で使えるのだろう。

これに対し、日本のカタカナ語のそれは
「インバウンドマーケティング」という外来語以外の事例では
いつでもほぼ「外国からの観光客云々」の意で使われるだろう。
結局、インバウンドが和製英語と言える事実は変わらないでしょう。



【※3】
"inbound demand”で web検索して
その意味(語意)不問で使用例があるかないかだけを調べても、
英語を母国語とする人が固有名詞以外で使っている例は、見当たらない
(10分調べてもほぼ皆無)。
日本のドメインのページ、つまり日本人が(和文を英訳して)作成したと思われる英語ページが
散見するくらいだ。

インバウンドが和製英語ではない、と主張する人がいる。ではその人に聞きたい。
それならなぜ、"inbound demand" という言葉が英語母国語圏にて
広く使われていないのでしょうか。使われていたとしても、それが果たして
日本語のカタカナと同じ「国外からの観光客がもたらす」の意味で使われているのでしょうか。


【※4】
inbound tourism consumption  という表現は、少ないながらもありそう
(.jp ドメインが非常に目立つが .com ドメインも少しだけある。
日本人が作ったと思われるweb ページが目立つのは、
検索の仕方が悪いからなのだろうか。そのせいでないと信じたい)。


いや、そう思えたのはOECDのドメインのページを見た事も大きいのだが、
そのリンク先を機械翻訳してみたら、どうやらそこでのページにおいて
inbound tourism consumption”はいわば(私の自作英語で言えば)
domestic tourism consumption を意味しているようだ。つまり
“inbound tourism consumption"は「国外からの観光客の消費」ではなく
国外からの旅行者の消費も含めた「ある国における国内観光消費」を表しているようだ。(※6)

すなわち、"inbound tourism consumption” における inbound の語意は、
inbound marketing における inbound の語意と変わらないだろう。

ここも参考になる。これは海外の国における OKWAVE とかヤフー知恵袋のようなものだろう。
そのリンク先から引用すると、

> Inbound/Incoming tourists are those people which travel to a country that is not theirs for holiday's or business. 

この引用部では inbound tourist で「国外から訪れた人」の意味になる、とある。
だが、これは tourist を修飾する際に限った特殊な事例だろうと思う。
また本来なら「本国行きの旅行者」という意味になるはずなのに、なぜこの投稿者は
そう説明しているのだろうか。新語のような、新しい意味の使い方なのかもしれない。


英語圏でのその話から考えれば、日本語で「インバウンド旅行者」という表現で言われた場合は、
必ずしも和製英語と言いきれなくなるだろう。
それはさておき、今の日本では「インバウンド需要」「インバウンド消費」や単に
「インバウンド」と言われていて、それらのインバウンドの意味が 英語の inbound とは違うのだから
奇妙なのだ。

「インバウンド旅行者」とか「インバウンド観光客」という表現ならば、
 英語の inbound と違うと断言出来なくなる。しかし、
この例外を除いて使われている「インバウンド」自体がぞんざいな印象があるために、
「インバウンド旅行者」とか「インバウンド観光客」と言い直されたところで
私には良い響きのある言葉には思えない。


その一方、tourist ではなく tourism をしたがえるとどんな意味になるか。

> Inbound tourism is the act of a person from a foreign country or  territory traveling within your country. 

この引用部では「※6」を証明している
(正確に言えば、国外からの旅行者のことを言う場合もあるらしいが)。

結局カタカナ語のインバウンドは国外からの旅行者の事に限定するものなのだから、
やはりそれは和製英語だろう、と言わざるをえない。


また、この事例は和製英語の「コンプレックス」にそっくりだと思う。
「劣等感」を英語では inferiority complex というが、これを外来語として
カタカナ言葉にする際、日本人は勝手に短縮して complex だけをカタカナにしたのだ。
英語で complex とだけ言っても、決して劣等感の意味にはならない 
(余談だが、逆に inferiority とだけ言えば「劣等感」の意味になる)。
和製英語が、元の英語を日本人の好き勝手に改変して生まれている一例だ。 

インバウンドの件についても同様と見なせるだろう。
inbound に tourist や tourism がくっついて初めて、
「外国からの旅行者云々」の意味になるのだ。inbound だけではその意味にならないのだ。

つまりカタカナの「インバウンド」では、 tourist や tourism にある
人間を表す意味が削ぎ落とされてしまっているので、
このカタカナを不意に耳に入れた外国人観光客には
不愉快に思えるかもしれないのだ。
「客」の意味を内包する単語を省略して言われた以上、
敬語の有無は差し置いても、日本で「おもてなしをされた」気分になれないでしょう。


【※5】
shipment には不可算名詞で「輸送」「発送」という語意の用法もありますが、
an inbound shipment と言えば、その shipment は
不加算名詞ではなく可算名詞としての「積み荷」「荷物」という意味になります。


なお、inbound について 英英辞典( Oxford Dictionary of English )も調べました。

> [adj. & adv.] 
travelling towards a particular place, especially when returning to the original point of departure:
> [as adj.] inbound traffic

それによると形容詞ではおよそ「本国に戻る」という意味しか説明されていません。
Wiktionary には掲載のあった、
入って来る」「内部へ向かう」という意味が、英英辞典には載っていないのです。

Wiktionary とはユーザー投稿による辞書サイトなのだから、
辞書に未掲載のような新語や新しい語意をいち早く掲載するものでしょう。したがって
Wiktionary にあって英英辞典に無い語意ならば、それは新しく生まれた語意の
可能性が高いはず。

IT用語とも言える "inbound marketing" も、「本国に戻る...」ではなく入って来る...」の意で
使われている言葉なのだから、本来の inbound にない意味を持たせた新語と言えそうですね。

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